Policy Thoughts

27 February 2015

 

斬首と報道機関:

何故、特定の紛争における残虐行為にのみ報道が集中するのか

 

by Virgil Hawkins (翻訳:内田州)

 

2014年8月,ある過激派武装組織の捕虜1名が,同組織の構成員により斬首された。犠牲者の母国政府は,この行為が非人道的且つテロ行為であると述べた。同事件は,現地報道機関及び極限られた国際報道機関により手短に報じられたものの,国際メディアの関心を集めることは殆どなく,義憤が広まる兆候もなかった。この犠牲者の名は,ジョージ・ムワイッタ。彼は,ケニアでソマリア反政府組織「アル・シャバブ」により誘拐されたケニア人トラック運転手であった。彼の死は,同様の事件の三日後に発生していた。同様の事件とは,シリアのIS(the Islamic State)により,米国人ジャーナリストのジェームズ・フォリーが斬首されたものであり,この事件は世界中のメディアの関心を集め,その余波が世界を駆け巡るかと思われた。この米国人ジャーナリスト斬首事件を受け,バラク・オバマ米大統領は「全世界の良心に衝撃を与える暴力行為」であると述べた。オーストラリア,ガボン,インドネシア及びウルグアイ(これはほんの数例に過ぎない)を含む多数の国家元首がこの殺人行為に対する強い憤りを表明し,世界の大多数の報道機関も,この事件が「世界に衝撃を与えた」ということに同意しているようであった。また,同事件が大々的に報道されたことが,その衝撃に対し多くの共感を実際に生むことを後押しした。ある世論調査では,米国市民の94%がこの事件を聞いたことが有ると回答しており,これは,過去五年間の世論調査対象となった如何なる出来事よりも認知度が高いことを示していた。

 しかし,世界では毎年50万人以上が暴力により死亡していると推定され ,彼の死が,愛する人,知人,また市民権を付与した国の人々だけでなく,ましてや「世界」に衝撃を与えた要因は何であったのであろうか。確かに斬首行為は,目撃者やその事実を知った者に対して衝撃を与えることを予期した,特別残忍且つ意図をもって象徴的意味を持たせうる殺害方法である。身体から頭部を完全に取り除くことは,加害者の目的達成の為には,生命を奪うだけでは不十分であると考えていることを示している。ある意味では,これは他の殺害様式とは異なると考えうる。しかしながら,今日の世界では,斬首は我々が望んでいるほど,必ずしも珍しい行為ではない。例えば,サウジアラビア政府は,2014年8月だけでも様々な罪状により19人を斬首した。中東からアフリカ及び中南米にかけて,かなりの数の戦闘に参加している者及び麻薬カルテルを含む非国家主体(non-state actors)が,敵対する者に恐怖を植え付け,目的を達成するための残忍な行為として斬首を行っている。しかし,ジェームズ・フォリーの事件が,例えばジョージ・ムワイッタのように同様の状況下で行われた他の斬首より,世界中でより衝撃的且つ報道価値が非常に高いとされた要因は何であったのだろうか。

 

 

 

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報道価値を決定する要因の検討

表面上は同様であるにも拘わらず,注目度と義憤という点において違いを生む要因は数多くある。ジェームズ・フォリーは,ジャーナリストであり,現場で事実を探求し共有することを職業とする非戦闘員であった。一方,ジョージ・ムワイッタも非戦闘員であり,現地で広く使われている低刺激薬「miraa」を配送するトラック運転手であった。ジェームズ・フォリーの職業が影響を与えた一要因であると看做すことはできるかもしれないが,しかし,2014年の初め以降,殉職しているジャーナリストは51人にのぼることを同時に指摘しておかなければならない。もし,犠牲者の潔白度が重要であると考えるのであれば,潔白度が最も高いと考えられ,我々の保護を最も必要とする児童を巻き込む事例も同様に注目に値する。例えば,中央アフリカ共和国で進行中の紛争下で,少なくとも2名の児童がムスリムであるという理由だけで,主にキリスト教系の武装勢力「反バラカ」に斬首され,遺体が解体された。殺害場所の地政学も要因として機能していると考えられる。フォーリーは,石油資源に富む地域の安定に密接な関わりをもつ紛争を抱えるシリアで殺害された。しかし,2011年以降,シリアでは40名のジャーナリストを含む数千の命が奪われ ,同国での紛争は,イラクにおける紛争と併合されてから随分時間が経つ。同紛争における犠牲者で,過去にこれだけの注目と義憤を集めた者はなかった。

 他の相違点は,映像の入手可能性である。ジョージ・ムワイッタの最期の瞬間をとらえた映像は公開されていない一方,ジェームズ・フォリーの事例では,(殺害自体ではないものの)非常に計画的且つ挑発的な残虐行為の映像を実際に見ることができた。しかし,ISは,多くの機会に,戦闘員,非戦闘員を問わず,大規模処刑を含む他の殺害模様をとらえた無数の映像を既に公開している。同様に,ナイジェリア武装勢力「ボコ・ハラム」は,最近のナイジェリア空軍中佐の最終陳述を含む,多くの捕虜の斬首映像を公開している。また,ISにより公開された非西欧人の斬首映像,及び「ボコ・ハラム」により公開された斬首映像には,ISの西欧人の斬首映像とは異なり,実際の殺害の模様がとらえられていた点にも着目すべきであろう。

 更なる議論をしなくとも痛々しいほど明らかなことは,これらの要因が報道及び義憤の程度を決定づける重要な要因ではなかったことである。明らかに,ジェームズ・フォリーが米国市民であるという事実が,注目を集める上で非常に大きな役割を果たしていたのである。国家中心主義のイデオロギーが広範囲を占める世界では,暴力的手法で殺害された場合の報道価値は,犠牲者の国籍に大きく依存している。従って,米国市民の犠牲に対し米国のメディアの関心が高いことは当然である。しかし,犠牲者が米国市民であるという事実が,米国の国境を越え,強力な含意を持ち得た理由は多くある。今日までの調査では,人種的,文化的,言語的,宗教的,社会経済的,及び他の類似性に基づき,視聴者が犠牲者を特定(共感)しうるであろうという(報道機関による)見積もりが,報道の程度を決定づけることに寄与していることが明らかとなっている。それぞれが距離的にオーストラリアと同程度離れていても,米国,英国及び仏国市民の最近の斬首に対する西欧メディアの恣意的な注目及び義憤は,例えば,ある程度似通った状況下で殺害された非西欧人の犠牲者に対するものと明らかに対照的であり,このことが上述の調査結果を裏付けているように思われる。米国政府及び主要な米国報道機関の力が,世界の報道に影響を与えている点にも着目しなければならない。米国で大きく報道された出来事に関しては,西欧,非西欧を問わず,米国外の大多数の報道機関により必然的に選択され,詳しく報じられることとなる。最後に,同様に重要なことは,ジェームズ・フォリーの処刑映像が米国の外交政策への直接的な挑戦を意図していたという点である。映像は,ISに対する米国の空爆を止めさせるため米国の人質を利用したものであったが,その映像は,米国そのものに対する脅威を象徴するものとして広く解釈されてきた。このことで世界最強の軍隊がISに対する空爆を拡大しうるという予測が,この事件をより際立たせてもいる。これら全ての要因が,米国の国境を越え,この事件の報道価値を高め,比類無き注目度及び義憤が生じることに寄与したと考えられる。

 

 

メディア・イベントの創出

しかし,問題は,報道機関がどの事件を注視すべきものとして選択するかという点だけではない。同時に重要なことは,この選択そのものが与える影響に関してである。国際報道機関自体が,ジェームズ・フォリー事件が実際に与えた影響を形成する上で主要な役割を果たし,また,その役割は映像の作成者の意図していたものであり,メディアは進んでそれを受け入れた。斬首執行人とみられる人物が英語で話し,オバマ米大統領に直接語りかけたという点,橙色の服を身にまとった犠牲者の象徴性,映像が複数の場面からなり大いに加工されていた点,犠牲者及び手に刃物を持ちフードをかぶった男の両者に小型マイクが装着され音質を担保していた点,これら全ての要因が,外国での衝撃及びメディアの関心を最大限に引きだそうとする非常に巧妙且つ計算された試みであることを示している。これは,メディア・イベントを創出する意図を持って作り出されたものである。オンライン上でこの映像が公開された後,「ボコ・ハラム」は同じことをしようと試みているものの,その映像価値は,ジェームズ・フォリーの映像に遠く及ばず,この事件後の西欧人被害者の映像の場合も同様である。

 シリア及びイラクの場合,外国のメディアがこの意図を実現する手助けしてきた。事件は,自動的に多くの報道各社のトップニュースとなり,特別残忍な行為を強調するため,視聴者間の悲しみ,同情,強い憤りを喚起し,特定の命が失われたことの重大さを印象づける。世界中で悲劇及び暴力による死が多くある中,特定の死に対し意味を持たせる,こういった背景(文脈)が特別重要なのである。死亡報告は,例えその数が多くとも,この点おいてその背景(文脈)と張り合うことはできない。一人の死は悲劇であるが,百万人の死は統計でしかないというヨシフ・スターリンの有名な所見は,一理ある。この不快な現実の証左として,コンゴ民主共和国(DRC)での紛争に呼応し,外国のメディアは協奏的に本質的な義憤を喚起しようと試みず,死者数は未曾有のものとなり,幾度となく死者が数百万に達したと明らかにされ最終的に死者数が540万人まで達した。しかし一方で,一人の死であっても本質的な背景及び深遠な意味が与えられれば,広範囲におよぶ「悲劇」となりうる。これは,報道内で犠牲者に名前,人間の顔,家族,人生の物語を与ることを意味する。また,これは,同僚及び愛する人へのインタビュー,家族の愛,善行,善意,抱負,潔白性を強調する幸せだったときの逸話,彼らの死が他者に与えた失われたものの重さを意味する。

 アフリカの犠牲者は,外国の報道でこのような悲劇的な背景(文脈)を与えられることはない。「アル・シャバブ」,「ボコ・ハラム」,「イスラム・マグリブ諸国のアル・カーイダ(AQIM)」,乃至は,中央アフリカ共和国「反バラカ」といった組織によるアフリカの犠牲者は,顔,人間的な特徴若しくは個人を特定できるような詳細な情報はおろか,名前すら与えられることも無い。数少ない英語での報道内容を吟味するため,LexisiNexisデータベースを用い「ジョージ・ムワイッタ(George Mwita)」と検索してみても,犠牲者の名前及び彼がトラック運転手であった事実以外は,殆ど個人情報が出てこない。同事件を扱った報道機関からも続報は出てこず,この事件に関して視聴者間の共感を喚起しようとする意図がないのは明らかである。確かに,犯罪行為のみならず,犠牲者の個人情報の入手が困難であることが更なる調査を阻んでいた面はあろうが,「反バラカ」により斬首された2名の児童に係る事件に関しても同様に,詳細な情報もそれを追求しようとする試みも欠落していることが見て取れる。

 

 

何故,国外の報道機関の注目が重要なのか

紛争に関連した残虐行為への世界的報道の広がりには,驚くほどの隔たりがある。特定の残虐行為に関しては,長期的,持続的且つ感情的報道の広がりを見せ,世界的な義憤を喚起する一方,同様の残虐行為であっても,それは全く報じられないか,もしくは一瞬報じられ,簡潔且つ事務的に処理されるのみである。アフリカ大陸外の報道機関では,アフリカでの残虐行為は,ほぼ例外なく後者の扱いを受ける。個人による残虐行為に関するこの傾向は,アフリカ大陸での世界で最も致命的なものを含む大規模且つ長期的な紛争全体が,報道機関により殆ど無視されている事実を反映している。2014年,例えば,ウクライナ,イスラエル・パレスチナ,シリア及びイラクの紛争が西側の報道を席巻した一方,中央アフリカ共和国,南スーダン,ソマリア,コンゴ民主共和国(DRC)における「ステルス」紛争へは,散発的に注意が向けられただけであった。もちろん,特定の残虐行為が他の同様の場合と比較し,報道に関して不均衡が生じるということは本質的に問題であり,人道的懸念は,皮膚の色乃至は国籍に基づく区別無しに人々に適応されるべきであり,この報道のあり方は,表面上の「人道的」強調として価値を損なうものである。しかし,遠方での残虐行為全体の報道の量及び内容に関しては,特別な配慮が必要である。仮に斬首が録画され,斬首を行った者がその映像を,国外で影響力を持ち積極的に促進されることを意図して編集したのであれば,実際の軍事,政治及び経済力では達成できないであろう世界での地位を得るという意図を持って,敵を恐怖に陥れ,悪名を得ることを目的としていると想定するべきである。そのような場合では,このような事件を海外の報道機関が非常に積極的に報道することが,斬首を行った者を後押しすることにつながるとも考えられる。しかし同時に,そのような残虐行為を公衆に提示することで喚起された義憤は,諸外国を動員し,そのような武装勢力による活動を遮るための方策をとることにも繋がる。これは,武器の流れの制限,資金援助及び武装組織への新兵補充の阻止,外交的圧力及び/若しくは,ある種の軍事的介入をも含む方策のことである。恐らく同様に重要なことは,こういった組織による活動に対する冷静且つ繊細な報道は,域外の民衆及び政策決定者が問題をより良く理解することを可能とする。従って,(冷静且つ繊細な報道は)感情的報道による反射的反応に比べ,状況を改善する可能性のより高い,より良い方策をとる素地となりうる。インターネット上で視覚的情報が無尽蔵に流通し,ソーシャルネットワーキングサービスにより利用者間の大規模な情報の共有が促進される世界では,伝統的な報道機関は力を失いつつあると考えがちである。しかし,情報の普及に関し大規模な変革が起こっているとはいえ,報道機関が,情報収集及び議題設定において非常に強力な役割を維持していることは間違いない。特に暴力及び無慈悲に人の命を奪う行為に関し,報道機関による何を報じるかの選択,及びどのようにその選択を行っているかに,我々は注視し続ける価値がある。

 

 

「アル・シャバブ」がラム州で5名を拉致

ナイロビ‐

金曜日,ソマリアに隣接する沿岸のラム州キウンガで,武装組織「アル・シャバブ」が5名のケニア人を拉致した。ニジェンガ・ミイリ・ラム州委員は,事件があったことを認め,重武装した民兵がキウンガ内で「Miraa(khat)」を搬送していたトラック2台を奪ったと述べた。同委員は,「我々は銃を持った男を追っており,彼らがアル・シャバブの構成員であると確信している」と新華社通信の電話取材に応え,「運転手5名及び積み荷がアル・シャバブの手中にあるが,我々はケニア人5名を解放するため,既に治安維持作戦を開始した」と述べた。また,ミイリ委員は,軍及び警察の混成部隊が暴徒鎮圧の為に派遣されたと述べた。

8月には,武装組織「アル・シャバブ」の構成員が,キウンガで拉致したケニア人運転手を斬首する事件が起こっていた。8月22日,ジョージ・ムワイッタの遺体は,ケニア国防軍(KDF)及び警察による救出作戦中に,同武装組織の民兵が隠れているボニ森林の中で発見された。

デイビッド・キマイヨ警視総監は,不安定な地域の正常化措置として,警察がラム州に於ける日没から夜明けまでの外出禁止令を拡大したと述べた。警察によると,7月に外出禁止令が発令されて以来,同州の治安悪化による事件は減少しており,日常生活,経済及び社会活動は徐々に平常に戻りつつある。

 

 

 

 

参考文献リスト

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